「良いコーヒー」と「美味しいコーヒー」

 コーヒーの香味を決める要因には、生豆の品質、焙煎、抽出の3つがあります。
 この要因の比率を、7:2:1という人もいて、スペシャルティーコーヒーなど生豆の品質を重視する傾向がありますが、私は、この3つの要因は、5×2×1だと考えています。
 どんなに良い生豆を使ったとしても焙煎技術や抽出技術がなければ、良い香味の一杯のコーヒーは生まれないと思います。

 喫茶でコーヒーを味わって頂くときには、抽出も店の者がやりますので、お出しする1杯のコーヒーは、私どもが考え、今持つ技術でお出しできる最良のコーヒーです。
 私どもの様に、豆売りを中心にしている場合には、豆を粉にする過程や抽出をお客様にゆだねることになります。
 日本酒やワインがボトルに詰められた液体を評価するのに対して、抽出と言う大切な工程を人に任せて、その上で評価されると言うのは、非常につらいものがあります。
 抽出とはどんな工程なのか、良い抽出とはどんなものなのかを、広めてゆく必要を痛感します。

 さて、タイトルの「良いコーヒー」と「美味しいコーヒー」ですが、私は以下の様に考えています。

良いコーヒー:良質の生豆に良い焙煎をして、良い抽出をしたコーヒー
美味しいコーヒー:一杯のコーヒーに求める香味と、コーヒーの香味が一致したコーヒー

「夏の軽井沢を歩き回った後に、冷房の利いた喫茶店で飲んだアイスコーヒーは‘美味しかった’」
「真冬のペンション。暖炉の前で飲んだ一杯のコーヒーは‘美味しかった’」

 その人の置かれた状況、精神状態などにより、まったく同じ香味のコーヒーを、今まで飲んだ中で一番美味しいコーヒーと感じたり、どこにでもあるコーヒーと感じたりすることがあると思います。
 美味しいコーヒーは人によって違いますし、同じ人でも置かれた状況によって、感じ方が変わってくると思います。

 良いコーヒーは、私どもが持つすべての技術をつぎ込めば出来るものですが、美味しいコーヒーは、良いコーヒーを飲んだときに偶然に生まれます。
 でも、良くないコーヒーは誰に取っても美味しくないコーヒーです。
 私どもは、良いコーヒーを作ろうと努力しています。100杯のコーヒーの中に、1杯の美味しいコーヒーが生まれて来ることを願っています。

 多くの種類の豆や異なる焙煎度の豆を販売しているのは、個人の好みや置かれた状況に対応できる可能性を高くするためです。
 朝、起きがけの一杯。家事の最中にがぶ飲みできるブレンド。夜寝る前に飲んでも、香り高くカフェインの少ない深煎りのコーヒーなど。
 いろんな豆をお試し頂いて、その時の気分に合った一杯を探してもらえたらと考えています。