良い焙煎

 良い焙煎とはどんな焙煎なのでしょうか。

「豆の持つ個性を十分に引き出し、その香味を長時間維持でいる焙煎」

 と考えています。

 マンデリンの苦味、モカの酸味。スペシャルティーコーヒーだけが持つ独特のアフターテイスト。豆の個性はいろいろあります。この業界において私はまだ駆け出し。豆の個性を引き出すような焙煎は難しいです。

 そんな私は目指しているのは、香味を長く維持できる焙煎です。
 焙煎後の豆は、短時間で急速に酸化して行きます。このため、焙煎後は、1週間で飲みきれとか、冷凍保存にして酸化を防げといいますが、焙煎方法によって、香味を維持できる時間は大きく変わります。

 私が焙煎を習った珈琲サイフォン(株)では、社長のお父さんである会長の焙煎は神業に見えます。
 会長は、自分の焙煎した豆は、40日程度はその香味を維持できると言い切ります。

 焙煎とは、生豆の状態で12〜15%位ある水分を出来る限り0%に近づける作業です。
 水分が0%になれば、豆は炭化してしまいますので、炭にならない範囲で水分を除去し、良質な香味成分を作る行為になります。

 焙煎において重要なのは、炭化させずに水分を抜くことで、水分が抜けきらない芯残りの状態や、炭化してしまった芯焼けの状態にしないことです。
 そして、もうひとつ重要なのは、豆の細胞を破壊するような焙煎をしてはいけないということです。
 焙煎を行うと、豆は、水分が抜けるにしたがって、小さくなってゆきます。これが1ハゼ、2ハゼの時に大きく膨らみます。
 収縮した豆から二酸化炭素が気体として出て、その力によって膨らむのです。
 このとき、水分が抜けすぎていると、豆の細胞を破壊してしまいます。
 膨らむ力に柔軟に対応できる水分は残っている必要があります。細胞が伸びきっても破壊されないだけの水分が必要です。ハゼの後にその最後の水分が抜けてゆくのが理想的であると考えています。
 ハゼによって、大きく膨らむのが、良い焙煎としている人がいますが、大きく膨らみすぎて細胞を破壊すると、香味は急激に抜けて行きますし、酸化も早くなります。
 センターカットが大きく開く焙煎より、芯残りも芯焼けもしないで、センターカットが開かない焙煎が最良の焙煎と考えています。